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承ジョセSS「冬のまんなかで」

2013/01/29

 
「どうしてこういうことになるんじゃー!」
その言葉とほぼ同時に響き渡る大音響。
ここが比較的人通りの多い場所で、閑静な住宅街でなかったことは幸いだろう。
思い切り、通行人に振り向かれるというデメリットを差し引いたとしても。
予定外の力で叩きつけられた車のドアを哀れに見やりながら、俺は本日何度目かのため息をもらす。
「天候には誰も勝てんだろう、諦めろじじい。」
まあそう告げつつも、俺自身がじじいを宥めるのを”諦めて”いるのだが。
案の定、俺を振り返ったその瞳には、先程から一向に鎮火することのない烈火を宿していた。



冬のまんなかで


今日の天気予報は昼から夕方にかけての雨。
それがどういう気まぐれか、若干気温が低めになったらしい。
しかし、その若干が今日という日においては致命的だった。
集中するため、カーテンを閉めたまま机に向かうこと約数時間。
俺はレポート、じじいはたまっていた仕事をようやく切り上げ、お互い外に出てみるとそこに広がるのは目を疑うような白銀の世界だった。






しばし呆然とその景色を眺めていた隣のじじいは、ふと我に返りアパートメントの目の前に止めていた愛車に駆け
寄った。
忌々しげに、ドアや窓に降り積もった雪を払いのけると、俺が声をかける間もなく、素早く乗車する。
反対側のドアを空け、上から除く頃、操作されたカーラジオから聞こえてきたのは、現在の交通状況だった。
まあ、道路状態は自分達の周りを見渡せば一目瞭然ではあったのだが。
それに、そもそも日本と違って、電車網もそこまで細かく張り巡らされていないのだ。
今日取れる行動は、その瞬間から、自ずと決まってしまったのだった。






「一体、どれくらい前から予約していたと思っとる!」
3日前。
一人暮らしの我が家に、急に押しかけてきて頼まれもしない”男の料理”とやらを作っていたと思ったら、急に名を呼ばれて、振り返った自分の視界を支配したのは名刺状の小さな紙だった。
目を細めて見ると、どうにもその方面にはいまいち疎い俺ですら知っている、レストラン名がそこには書かれていた。
次いでそれを掲げる人間に目線を移せば、満面の笑み。

「少し遅めの入学祝いじゃv」

じじいがどれだけこの日を待ち望んでいたのかを俺は知っている。






「全く、わしが一体何をした!この1週間、まじめに仕事して誰にも迷惑かけなかったじゃないか!」
勢いに任せて、目的もなく歩き出しても、ひたすら続く悪態。
迷惑をかけてる自覚はあったのかと頭の片隅で思いながら、それとは全く違う言葉を俺はかけようとする。
何故なら、さっきからじじいは一切、足元というものを見ていなかった。
「じじい、ちゃんと足元を・・・・・・」
「へ?」
しかし、その忠告は僅かに遅かった。
俺の言葉が終わらないうちに目の前の人物の体がブれる。
脳が指令を出すよりもおそらく先に動いた体が伸ばさせた手に。
瞬時にして重みがかかる。
そのまま自然と、掴んだ右腕ごと自分に引き寄せると次に感じるのは温もりだった。
いささか拍動を早めた鼓動すら、直に伝わってくる。
しばし、お互いに言葉をなくし動きが止まる。
じじいはおそらく自分の失態の気恥ずかしさの為に。
俺はもう少し、この温もりを味わっていたいが為に。






ふと、粉雪が眼前の銀糸の髪に舞い降りる。
それにより、急激に”この場”に引き戻されたじじいの腕が、再度俺達の間に距離を作った。
「す、すまん。」
そのまま、決して俺の顔を見ようとせず、下を向いたまま口早に告げる。
自分から離れた体温を名残惜しく思いながらも、俺の右手は自分でも驚くほど穏やかな手つきでじじいの髪に触
れていた。
そのまま、降りかかった雪を静かに払いのける。
「気をつけろよ。」
だが、それにぴくりと反応をしながら。
それでも、まだじじいは視線を上げない。
上げることができない。
そんな相手を見て。
ふと、湧き上がったこの感情は何なのだろう。
だが、確実に心を満たしていくそれに押されるように。
俺は、ゆっくりと、流れるような動きでに手を差し出していた。






「!」
その瞬間、いまだに俯いていた顔が、驚きと共に、勢いよく上げられる。
「・・・・・・どういうつもりじゃ?」
「また転ぶと危ないだろう?」
からかいを含んではいたがあからさまな言い方に、じじいの頬に一瞬で朱が上る。
「あのなあ・・・・・・」
不満を顕にしながらも、先程の失態の為、二の句の告げないじじいは俺の顔と差し出された手の両方を交互に眺
める。
そして寄せられる眉間の皺。
「ほら。」
促しはただ一言でいい。
何故なら俺はこの後どうなるかを知っているのだから。
「・・・・・・さ、寒いからじゃからな。」
必死に小声でぽそりと搾り出した理由を盾に、様々な感情を打ち消すかのようにいささか強めに握られた手。
予見していたその結果に、俺の口元は自然に弧を描いていた。






「何を笑っとる。」
ぎこちなく歩き出してからやや経った頃、ふと引っ張られ歩調を緩めると、下から食い入るような視線を感じる。
いかん。俺とした事が、表情の制御をつい怠っていたようだ。
ひどく不審げな眼差しがそこにはあった。
しばしの逡巡の後、俺の笑みは更に深いものとなる。
「さあな。」






そうさ。
こんな機会を与えてくれるのなら。
雪も存外、悪くはない。






理由は返さずに。
じじいの方を向くこともなく、俺はゆっくりその手を握り返し、導くように歩き始めた。










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inUSA(3部後)設定。
承太郎って大学はアメリカだと思ってるんですけど、真相は如何に。

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