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承ジョセSS「花に嵐」

2013/04/23

「一杯どうだ。」

春の陽気、そのあまりの穏やかさに、ヒュピノスに惑わされそうになっていたわしの頭上から、それを払いのける声がかかる。

「お前…それどこから持ってきたんじゃ。」

その手には、日本酒の一升瓶と鮮やかな蒼さを誇る御猪口二つ。

「蔵の中のをちょっとな。」
「あとで怒られてもしらんぞ…」

一応、保護者としての立場を示してみる。
だが、わしだって酒は嫌いじゃない。
特に、近年覚えた日本酒の味は、意外にも自分にしっくりくるもので、驚いたものだった。

「じゃあ、いらねえんだな。」

だから、自分の心に正直に動いた腕は、そう言って翻った相手の服の裾をしっかりと掴んでいた。



花に嵐



特等席の縁側から臨むのは日本庭園。
そして、その広さに在りながら何故か隅の方に陣取る、この国で最も愛される花。
一体、いつからここにあるのか聞いてみれば、この家が建てられる前から、既に植わってたらしいという返答で。
この家屋自体、相当年代モノだと思うんじゃが…一体どれほどの樹齢なのやら。

しかし、だからこその、この美しさなのか。
ひらり。
一つの花弁が地面にたどり着くのを見守っていると、すぐ様また新しいそれが視界をかすめていく。
その中で風に運ばれた欠片はまるで戯れる様にふわふわと踊り、緩やかに着地する。
そんな幻想的な繰り返しを、ただひたすら見つめていると、ある一つの思いがこみあげてくる。

「何でじゃろうな。」
「…何がだ。」
「ワシントンで見た桜は、青空に映えて、ただひたすら”きれいだ”とだけ思ってたんじゃが、ここの桜を見てると…」
「寂しいとか、哀しいって思うのか。」
「…よく解ったな。」

思わず顔に出ていたのか、自分の心情をぴったり見透かされて、いささか驚く。

「こっちの桜は哀しい哀しいって言われながら、根を張ってきたからじゃねえか。昔っからやたらその”儚さ”と別れを結び付けられる花でもあるしな。」

そして、そんな意外とも言える承太郎の回答に、今度は呆気に取られつつ。

「ははは。成程な。」

すぐ様、その的確さに笑みが零れた。
日本の言霊信仰という奴だったか。
言葉は力を宿す。
何度も何度もその言葉を刻みつけられれば、確かに花自身もそう思い込んでしまうかもしれない。

「儚い、か…」

そして、承太郎の発した一つの単語が自分の中に、『何か』を落とす。
わしは、少し強めに吹き始めた風に導かれる様に、再度その花樹に目を向けた。






それはあのハラハラと舞い散る花弁の如く。

古今、誰もが願った事じゃないだろうか。
まるで、視界を覆い尽くす程の花吹雪の向こうに。



二度と会う事の叶わない、誰かの姿が垣間見えるのではないかと。






「おい」
「え?」

一瞬、夢の中にいたかの様な感覚を打ち破る、その一言に弾かれた様に振り向けば。
承太郎がきつく自分の左腕を掴んでいた。
自分にその感覚はなくとも、”きつく”と表現したのは、ちょっとした機械音が生じていたからだ。
…それじゃおまえの手が痛いだろう。
そんな思いを込めて、握られた腕に視線を落とせば、それに気が付いた手がすぐに離れる。
自分の取った行動にいささかバツが悪くなったのか、そのままこちらを向こうとしない。

「おい、承…」

図らずも漂ってしまった、どこか気まずい雰囲気を和らげようと、名前を呼ぼうとしたその刹那。

「気に食わねえな。」
「…?」

全く脈絡のない単語が耳を通り、思わずその横顔をまじまじと見つめてしまう。

「何の話じゃ?」

今の流れで、どこか孫の不興を買う事があっただろうかと頭を捻る。

「…”アレ”にアンタを取られた気がする。」

だが、そんな些細な疑問は次の瞬間には、見事に粉砕されていた。
よりにもよって。
漸く、自分の方を向いたと思ったその口からは。
何の躊躇いもなく、そんな言葉が投げつけられていた。






暫しの完全なる沈黙の後、あまりにも直球なその台詞の衝撃に、わしの手から御猪口が床板に転がり落ちる。
現実逃避なのか、中身がなくて本当によかったなどと、どうでもいい事が頭の片隅をよぎった。

「な、なななな!お前何を言って!!!」

だが、体がスルーする事は許さないと主張するかの様に、己の顔に熱が集まってきてしまう。

「言葉通りの意味だぜ。」
「こ、言葉通りって…」

「俺といる時は、俺を見てろ。」

…ああ、こんな台詞、こんな表情で言われて。
年頃の女性だったら、一発で恋に落ちるじゃろうな。
だが、である。
…わしは”祖父”として、一体どう対応すればいいんじゃ!

「いやいやいや!落ち着け、承太郎!お、おまえ酔ってるじゃろ!そーいうのは…」
「次にアンタは「好きになった相手に言え」と言う。」

おいー!今の状態で使うか、わしの十八番を!
完全に後手にまわっている状況は全くもって不本意だ。
しかし、相手の油断を誘おうにも、そんなものは微塵の欠片も持っていない、自分と同じ緑の瞳に見つめられて。
わしの各部位は、全く持って主人の言う事を聞く様子がない。
そんな中、ふいに頬に手を伸ばされ、体が反射的に跳ね上がる。

「何、びびってんだよ。」
「だ、誰が…」
「ほら、これだ。」

その指先には薄桃色の一枚の花弁。
からかわれた様な気分になり、思わず怒りがこみ上げる。

「じょっ…!?」

だがその怒声はすぐ様、突然の温もりに封じられる事になる。
自分の理性に反抗する様に、ますます熱を持つその体を。






ただ散華だけが、どこか懐かしい優しさで、音もなく包みこんでいた。







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桜前線が終わっちゃう前に、なんとかアップ!
やっぱり一回は書いておきたい桜ネタです。
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