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承ジョセVDSS「SWALK」

2013/02/14

この家でもお気に入りの縁側に座り、洗濯をしているホリィと他愛もない話をしていると、そこに今日なかなか姿を見せなかった承太郎がやってきた。
後ろ手に何かを隠す様にしているその姿に、声をかけずに、見守っていると、承太郎はそのままホリィの所に向かい、何かを差し出す。
「はい、母さん。」
「あらあらあら、私にくれるの!?ありがとう~」
ホリィの手元を見ると、それははがき程のサイズの封筒に入れられたカードの様だった。
封から引き出されたその表面には、ハートやピンク等、承太郎が選んだにしては、やたらかわいらしい絵柄が書かれていたので、不思議に思ったが、すぐに合点がいった。
ああ、そうか。今日は…
「…承太郎!大好きー!」
カードの文面を目が追うや否や、その場にしゃがんで頬ずりしながら孫を抱きしめる娘の姿を見ていると、いまだ寒さの残る今日の様な日でも、心に自ずと温かいものが広がる。
”わしも子供の頃は、おばあちゃんに毎年花とカードを送っていたなあ。”
そしてそれは、懐かしくて優しい思い出までも引き出してくれた。






しかし、世の母と息子同様、今はホリィがいる“その地位”には、いつかは愛する恋人が就くのだろう。
まだ先の事だろうと笑われそうだが、やはり考えずにはいられない。
息子の幸せを願えば、とても喜ばしい事だが、家族としてはほんの少しの寂しさも隠せない筈で。
きっとそれはわしも同じだ。
まあホリィの場合はあの勢いとパワーでちゃっかりその先もずっと、貰いそうだが。






そう一人で苦笑いを浮かべていると、気がつけば目の前に承太郎がいた。
「ん?どうした、承太郎。」
今にも踊りださん勢いで、大切そうにカードを抱きしめていたと思ったら、何かを思いついたのか、家の中に走って行くホリィを視界に入れながら、そう問いかける。
承太郎の表情や気配から、僅かながら緊張しているのが伝わってきた。
…珍しいな。わしの前では終ぞ、そんなものは表れた事がなかったのだが。
そして、次の瞬間、承太郎は無言でわしにも、違う色の封筒を渡してきた。
「え?わしにか?」
「…うん。」
確認の言葉はあっさりと返されてしまった。
…ちょっと待て。ひょっとして何かの風習と混ざってしまっているのか?
それとも日本では、恋人や母親以外にも贈る風習があるのか?
いや、ただ単に、ホリィにだけ贈るのは、わしに悪いと思ったのかもしれない。
承太郎は娘に似て、優しい子じゃからな。
うむ、そうに違いない。
でも間違いは正さないと後で困るのは承太郎なのだ。
しかも…よりによって、カードを納めたその封筒を裏返せば、母国でよく見知った言葉が、習ったばかりであろう筆記体で書かれていた。

''SWALK''

「Sealed With A Loving Kiss」のイギリス英語独特の省略形。
つまり、意味は…
「愛を込めたキスで封をしました」

…これはどう考えても、わしのもらっていいものじゃないだろう。
アメリカでは使用しない、この若い恋人間の言い回しを一体どこで、いや誰から聞いたんじゃ。
まさかホリィのカードにもこれを書いたんじゃないだろうな。
…やはりしっかりと言って聞かせなくては。
しかし、わしはなかなか実行に移せなかった。
目の前のどこか不安げな瞳が、訂正の言葉を言い淀ませるのだ。
「あのな、承「だって…」
だが、意を決してそう言いかけた言葉を最後まで待たず、いつまでたっても受け取らないわしに対し、承太郎は、被せる様に、告げてきた。
「だって自分にとって、誰よりも大切な人に渡すって前にひいおばあちゃんから聞いたよ?だったらおじいちゃんにも渡さなきゃ。」
その言葉は先ほどの自分の疑問に対する答えをはっきりと含んではいたが、今はそんな事は横に置いておく。
…こんないじらしい事を言われて、一体他に何を返せると言うんじゃ。
娘がしたのと同様、感激のままに、ただただ抱きしめて、頬に口づけるしかないだろう。
「…ありがとう、承太郎。」
そのまま引き寄せた耳元にそう囁けば、わしのスキンシップに慣れている筈の承太郎もさすがに照れたのか、その耳がほのかに赤く染まる。その様子に、わしの笑みもさらに深くなる。
…まあ、いいじゃろう。大人になれば自然と解る事だし。
だから、今はめいっぱい承太郎の気持ちを受け取っておこうと。
「わしもおまえが大好きじゃ。」
腕の中の温かさに、最上の幸福感に満たされたわしはそう思っていた。






しかし。
今正対して、カードの添えられた一本の真っ赤なバラを自分に差し出している孫は、その身長からだけでなく、世界各国のどの国の基準から見ても、“大人”にしか見えなかった。






あの時ちゃんと正しておけばよかったのだろうか。
そうしたら、今のこの状況にはならなかったのだろうか。
あの頃、屈んで抱き抱えられた子は、今は全く同じ高さの目線で、ただひたすらまっすぐ、射抜くようにわしを見つめている。






「ほら、早く受け取れよ。」
先ほどから続く、沈黙の攻防戦に、どこにも退路がない事を否が応にも悟って、わしは恐る恐るそれを受け取る。
ところが、花から離し、無造作に裏返したカードには何も書かれていなかった。
昔贈ってくれたカードには必ず書いてあった”あの言葉”が。

「”これ”に込める必要はねえからな。」

自分の前に下りた影と言葉に、不審の視線を上げるより前に。
突如、唇を温かく柔らかい何かが掠める。

「ハッピーバレンタイン、じじい。」

思考を刹那止めた脳が、自分がされた事を遅まきながら自覚した事により、一気に血流が顔に集中する感覚を覚える。そのまま、あまりの事態に何も言えずにふらついたわしを、目の前の孫は、祝いの言葉には全くそぐわない、鮮やかで不敵な笑みを浮かべて、見下ろしていた。









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バレンタイン記念SS。
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